反脆弱性 下
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ソクラテスは、書き言葉の確定性や不変性が好きになれなかった。
ソクラテスは、「人間は悪とわかって悪事を犯すわけではない」と考え、人々の理解を深めようと考えた。この考えは啓蒙思想にも浸透したようだ。たとえば、コンドルセなどの思想家たちは、真理こそが唯一かつ十分な善の源だと考えた。 ニーチェが非難したのはまさにこの主張だった。知識は万能薬であり、過ちは悪だ。したがって、科学は楽天的な営みである。ニーチェをいらだたせたのは、論理や知識をユートピアの従僕のように使う、科学の楽天主義による支配だった。
哲学者は正しいか正しくないかを論じる。しかし、実生活の人々は、ペイオフ、エクスポージャー、影響(リスクと報酬)について話す。つまり、脆さと反脆さだ。そして、哲学者、思想家、お勉強好きの人たちは、真実をリスクや報酬と同一化してしまうことがある。
人は確率の大小ではなく脆さに基づいて決定を下している。言い換えれば、「正しい」「正しくない」ではなく、脆さに基づいて主に意思決定をしている。
脆いものについていえば、衝撃の強さが増すに従って、被害の増す度合いは大きくなっていく(一定限度まで)。脆いものについていえば、小さな衝撃がもたらす累積的な影響は、その合計と同等な1回の巨大な衝撃がもたらす影響よりも小さい。
反脆いものについていえば、衝撃の強さが増すに従って、利益の増す(害の減る)度合いは大きくなっていく(一定限度まで)。
ゾウ、ボアコンストリクター(王蛇)、マンモスなどの巨大動物は、絶滅しやすい傾向がある。資源が逼迫したときにスクイーズに陥りやすいだけでなく、力学的な制約もある。巨大動物は小さな動物と比べて衝撃に弱い。これも大石と小石の関係と同じだ。いつも人々の一歩先を行っているジャレド・ダイアモンドは、『なぜネコには九つの命があるのか?(Why Cats Have Nine Lives)』という論文で、この種の脆弱性について説明している。ネコやネズミを体長の数倍の高さから落としても、ふつうは大丈夫だ。ところが、ゾウは簡単に手足を折る。
イノベーションとは、1000のアイデアにノーと言うことなのだ
私たちは、大きな役割を果たしているけれど変化しないものよりも、変動や変化のあるものに注目してしまう。人間は携帯電話よりも水に依存しているが、水は変化せず、携帯電話は変化するので、携帯電話が実際よりも大きな役割を果たしていると考えがちだ。
悲嘆に満ちたエレミヤの人生を思い出してほしい。彼は、崩壊や捕囚、その原因について不吉な警告を発したが、あまり称えられなかった。彼は、「凶報を持ってきた人を責める(shoot the messenger)」という概念や「真実は憎悪を生む(veritas odium parit)」という表現を象徴する人物だった。エレミヤは殴られ、罰を受け、迫害され、数々の陰謀に遭った。彼をそんな目に遭わせた人の中には、彼の兄弟も含まれていた。
ひと言でいえば犠牲だ。この「犠牲(sacrifice)」という単語は「神聖(sacred)」と関係がある。つまり、俗世とは切り離された聖なる世界に属する行為なのだ。
スティグリッツ症候群は、いいとこ取りのひとつの形だが、加害者が自分の行いに気づいていないだけに、いちばん質が悪い。危険を察知できないばかりか、その原因を作っておきながら、自分自身には(時には他者にも)その逆だと言い聞かせる。自分は予言していたし、警告も発していましたよ、と言い聞かせるわけだ。この病理は、優秀な分析スキル、脆さへの無知、選択的な記憶、身銭を切らないことの組み合わせで成り立っている。
カモは自分が正しいことを証明しようとするが、カモでないヤツらは金を儲けようとする。別の言い方をすると、 カモは議論に勝とうとする。カモでないヤツらは勝とうとする。
このような欠陥は、文化的・生物学的に身銭を切らないことで生じる。自分自身の利益のために他人を傷つけるという非対称性が原因なのだ。 さて、こういうシステムは内破しやすいはずだ。そして、実際にそうだ。よくいわれるように、あまりにも長い間、あまりにも多くの人々をだましつづけることなどできない。しかし、内破のいちばんの問題点は、経営者には影響がないということだ。エージェンシー問題のせいで、経営者が忠誠を尽くすのは自分のキャッシュ・フローだけ。あとで企業が破綻しようがどうってことはない。そのころにはボーナスはしっかり懐に収まっている。現在のところ、経営者に負のボーナスなんてものはないからだ。
商売につながるのは道義心だけだ。どんな商売であっても。
他者の犠牲の上にあるオプション性を廃絶し、そうやって反脆さを手に入れる人たちを減らすことだ。これは単純な「否定の道」だ。あとは自然がなんとかしてくれる。
すべてのものは変動性によって得または損をする。脆さとは、変動性や不確実性によって損をするものである。